患者さんのこと その3 最終話

年が明けて服用開始して3年目の去年の夏、帰省した折久しぶりに、また顔を見せてくれました。仕事の状況など近況も含め明るく話をしてくれました。仕事は賄いで自分に合っていると思うと話してくれました。食というのは、とても大事なことです。調理に就いて命の糧を養っている訳ですし、直接反応も返って来ますから、仕事への意欲も湧きます。

お母様が一言、「御給金は、安いんですけれどね。」と仕事の状況を一生懸命話す彼女の横で言った時です。「金額ではありません。仕事をしている事は私の誇りです。社会に参加している、役に立っているという事は誇りなんです。」彼女が静かに言いました。

もう私は胸がいっぱいになりました。お母様も悪気があった訳ではありません。娘を庇う気持ちからの精一杯の一言であったと思います。私も親ですからお母様の思いは充分に分かります。でもそれよりも何よりもこの時の彼女の一言は、人間というものの素晴らしさ、労働というものの本質を言い当てていて、初めてここに来た時の全く表情のなかった彼女からは想像も出来ない展開で、有り難い気持ち、尊い気持ちになり涙が溢れました。

今年彼女から頂いた年賀状には「去年は充実した一年でした。」とありました。良い主治医に巡り会えた事、主治医の理解の元漢方薬を継続できている事に心から感謝をして、これからも彼女が彼女なりのフィールドで充実して生きて行ってくれるよう強く願っています。